Page 75 - 権五石会長の人生のエッセイ J01
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母の鯉
ある日母が市場で鯉を買ってきた。
「オソク、この鯉はお前が運動するのに食べさせるために買ってきたから殺
せ。」ということだ。
鯉は新鮮でぴちぴち 跳ねていた。
私はすぐにたらいに水と鯉を入れた。
すると鯉は青黒いひれを振りながら楽しく泳ぎ回った。
私はしばらく見て、母に鯉を飼ってはいけないかと尋ねた。
母は笑いながら「お前に殺せと言った私が間違えた。 こっちにちょうだい。」
と言って容赦なく頭を真っ二つにするのではないか?
瞬間的に母親が薄情で、鯉に一瞬でも申し訳ない気持ちを持つようになった。
こんな気持ちを母は気づいたのか座れと言っては、
「オソク、あなたが命をそんなに大切にするのは理解できるが、鯉の運命は自
分を私たちに与えて私たちがその鯉を食べて元気に暮らそうとするのが彼らの
生の目的だ。」と私を理解させてくれた。
幼い心情がその忙しい状況でも傷つくのではないかと優しく鯉に関する事項を
話してくれた母の慈しみが数十年が過ぎた今も胸の奥深くに刻まれている。
思慮深い母の深い気持ちを感じさせる部分だ。
そんな母から幼い頃の人生を学んだからか、私はいつも人生の目的が何かと考
えながら生きてきた。
今も母が私に言ったことを思い出す。
「鯉一匹でも生の目的があるのに、まして人間が生の目的がなくてどうな
る???」(母の声が耳元で響く。)
「はい…お母さん… 生の目的を持って今日も挫折せずに一生懸命走ります。」
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